卯の花(うのはな)

作詞

不明(瀬川如皐とも)

作曲

二世清元延寿太夫の妻いそ(磯女)

初演

1831年(天保2年)春

本名題

賑民壽萬歳(にぎわうたみのことぶきまんざい)

参考資料

清元集 清元全集 清元五十番

解説

この曲は歳旦浄瑠璃として開曲されたと伝わります。この歳旦浄瑠璃とは正月の祝いに新作で披露された曲のことです。
披露された天保2年は「卯年」であったために唄い出しを「卯の花」とし、そこから通称になりました。

内容は隅田川、特に深川本所方面の四季の風物を取り入れた内容ですが、この年の恵方が深川本所方面の方角だったことも題材にされた所以です。

太田蜀山人の狂歌「玉川の卯の花月は波走る玉兎とぞ言うべかりける」からもヒントを得て、卯の花を雪景色に見立てて兎を作る情景、「波走る」で茄子の走る(旬の時期)を掛け、茄子の走りと同時期(3月~4月)で連想した旬の初鰹、茄子は手に入りやすいが初鰹は高値で手が出ない。天と地を指すお釈迦様の誕生仏ように指一本を立てて、それを口にくわえて羨ましがっている様子を描いているという様に、掛詞で歌詞が繋がっていて人間味あふれる洒落の効いた表現になっています。

「仲町」は深川にあった非公認の遊郭(吉原は幕府公認)、「あれのかれの」は話のあれこれと「荒れ野枯野」という向島にあった幕府の御鷹野と掛かっています。
「ふりの日脚」は時雨が振り出し冬も近いという意味、また「せきぞろ」は節季候と書き、年末に家々を回った乞食芸人のことで「さっさとござれ」と追い払うのも風物詩になっているという意味です。

曲調も面白く、前弾きより上調子が軽妙に旋律を表現したり、歌詞に寄り添って「佃」「新内がかり」「端唄がかり」、鼓の音を表すため、二の糸をツーンツーンと弾く「こき」も聴きどころです。

歌詞

卯の花の 雪で兎を作るなら 目には程よき花落の
茄子の走りに浪越えて 高値はまけぬ初がつお
釈迦の誕生指させど 天にも地にもただ一本
一杯飲んだ酒機嫌 まだあと船や日和下駄
来るか来るかと川岸へ出て見れば 船は屋根船 佃節
おっと危ねェ長箱の
先へ二上りさん橋や 是非に御見と書く文は
筆の鞘町か西川岸か うまい仲町中空に
てっぺんかけたと鳴いて行く
時鳥過ぎて雨晴れて 千種の花の露しげみ
なお光添う秋の夜の
月の影さへ隅田川 いざ言問わん都鳥
あれの枯野と向島 誰が庵崎か琴の音も
この頃遠し冬籠り ふりの日脚も節季候の
さっさとござれ年の暮
一ト夜明くればおのずから のどけき春の朝ぼらけ
梅に来て鳴く鶯に 初音ゆずりて才若が
千代の小鼓おっとりて 万々歳と祝う寿 久しけれ

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