須磨の写繪(すまのうつしえ)上

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作詞

二世桜田治助

作曲

清沢萬吉(のち初世清元斎兵衛)

初演

1815年(文化12年)5月 江戸市村座

本名題

今様須磨の寫繪(いまようすまのうつしえ)

参考資料

清元全集 清元集 清元五十番

解説

この曲は清元では珍しい、一幕で完結する舞踊劇です。
元は謡曲「松風」を新たな登場人物「漁師此兵衛」を加えて脚色し、常磐津・富本として上演された記録があり、本名題に「今様」と付けたのは上記の演目と差別化を図ってのことと推測されています。

現在では上下で分けて上演されることが多くあります。

(上)
在原行平は勅勘(天皇の怒り)を受けて須磨へ流罷の身になっている時、海女の松風村雨姉妹と馴れ染めていました。ある日勅勘が許され都へ戻ることになり、松風村雨姉妹に別れの印として烏帽子と狩衣、一首を松の木に吊り下げて行平は須磨を後にするのでした。

(下)
松風村雨姉妹は松の木の品を見つけます。
「立別れ因幡の山の峰に生うる松とし聞かば今帰り来む」の一首を読み、業平は都へ帰ったと悟ります。
姉妹は恋い慕い、跡を追いかけようとしますが姉の松風は悲しみに余り気を失ってしまいます。そこへ漁師此兵衛がやってきて、姉は自分に任せて村雨に一人で業平を追うように急かします。
「別れの印」を抱いたまま目を覚ました松風は此兵衛の口説きにも応じず、妹村雨が一人で業平を追いかけて行ったことを恨み、女の一念で追いつきたいと狂いもだえるのでした。

初演
松風・市川團之助 村雨・岩井粂三郎 業平と此兵衛・嵐三五郎

演奏
初世清元延寿太夫 清元宮路太夫 清元佐喜太夫
清沢萬吉 伊藤東三郎

歌詞

聚楽の御所の御遊とて 歌舞伎召されて浄瑠璃も
小野のお通が松風に さて村雨は佐渡島の
お国ときめて行平は 伏見山三が役廻り
面白や 馴れても須磨の夕まぐれ
よそ目にそれと白浪の 寄する渚に恋ひ渡る
蜑(あま)には惜しき姉妹(おとどい)が 互ひに思ひ在原の
君に手枕川島の いつしか深う鳴海潟
ここは鳴尾の松影に うらやましくもすむ月の
出汐をいざや汲もうよ 女業にはオォ恥かしや
裾をからげて かいやり捨てて 脛もあらわに ぞんぶりこぞんぶりこ
浦の海松(みるめ)や若布(わかめ)もままよ 千鳥鴎がアレ囁いて

昼はえぇ浜辺になぁえぇ汐なれ衣 夜は殿御と濡衣
こちゃこちゃこちゃ知っている
暮れをえぇ松風なぁえぇ
別れの鐘には 涙村雨袖しぼる
こちゃこちゃこちゃ知っている あぁ辛気
辛気辛苦を汲みわけて 見れば月こそ桶にあり
これにも月の入りたるや 月は一つ影は二つ満汐も
恋の重荷と思えばほんに 憂しと思はぬ汐路かな

行平「わくらはに問ふ人あらば須磨の浦に 三歳此方住みなれて」
松風「潮汲む業のいとまなみ お宮仕への嬉しさも」
村雨「言うに言はれぬ私等が 賤しい身にて幾夜半か」
行平「結ぶ縁の行平も」

あわれ古えを 思ひ出づれば懐しや
雲井の上にありし時 月の御会や花の宴
冠装束厳めしう 座に連なれど上の空
宵間にそっと局町 彼も我等を待ち侘びて
なぞとかこちし爪音に ツンテンコロリとさせもが露の
命かけたる中々も 今日ばかりとぞ田鶴もなく
疑ひ故に勅勘受け 今さすらえの憂き住居
そのさすらえとやらなればこそ こんな浦曲へお出でもありて
夢にも知らぬ御姿を 見上げ申して女気に
身にも及ばぬ恋をさえ 須磨のあまりにやる方も
渚の小舟漕ぎ寄せて 心のたけをつげの櫛
さしも由ある御方と 逢瀬嬉しき明暮れに
思ひは同じ恋草を 結び合わせて芦の屋の
仮そめ枕冥加ない 御睦言に引きかえて
今の仰せは憎らしい 私ばかりは変らじと
寄りそふ村雨松風が 中を隔ててこれ妹
姉を差置きまんがちな 行平様はこのわしが
いえいえなんぼ姉さんでも こればっかりは面々しがち
イヤそりゃならぬ イエ私と
常睦まじき姉妹も 色に沢立つ浜千鳥

行平「風もあらぬに群れ立つ千鳥 声呼び交わし立ち騒ぐは さしくる潮の時なるや」
松風「珍らしそうに それをまぁ」
村雨「なぜその様に」
姉妹「おっしゃるのじゃ」
行平「さぁこりゃあの おぉそれそれ 二人が角目立ちゃるを見て 千鳥が笑う恋うさかい 仲睦まじうわっさりと」
松風「浮いて踊りの」
三人「手をそろえ」

一と夜寝る身を比翼と思や 立つ名もままの川千鳥
縁も深き友千鳥 夕浪千鳥約束の
月にも雲の村千鳥 一人憂き寝を島千鳥
とは知らぬ男の にく小夜千鳥
焦れ焦がれて磯千鳥
通う千鳥の浦づたい

行平「さぁさぁこれで仲直り 右と左に松風村雨 先へ庵りで待っていや」
松風「そんなら必ず」
行平「二人の恋人」
姉妹「行平様」
行平「さぁ行きや」
姉妹「あーい」

君が仰せに否ものう 打ちつれ庵へ急ぎ行く

行平「勅免によって帰路の行平 それと二人に打明けて 言はば名残も尽きまじと 包むが中にさし来る汐 沖の千鳥のたち騒ぐは 早や出船の時来りしか
せめて二人へこの一筆 形見に添える烏帽子狩衣この松ヶ枝に残し置けば あとにて心慰めくれよ この上は猶予は恐れいずれ伝手にて呼迎えん 両人さらば」

さらばの声も汐曇り しめる心を取直し
御船を指してぞ出で給う

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