仇ゆめ(あだゆめ)

作詞

北條秀司

作曲

二世野澤喜左衛門 清元榮寿郎 富崎冨美代  作調 三世住田長三郎

初演

1966年(昭和41年)6月 日生劇場

本名題

なし

参考資料

松竹演劇部 日本舞踊舞踊劇選集(国立劇場図書閲覧室資料所蔵)

解説

この曲は1966年(昭和41年)6月29日~7月3日に日生劇場で開催された「西川会」で初演され、1969年(昭和44年)3月に歌舞伎座興行にて上演されました。

歌舞伎座興行の当時の上演メンバーは
狸 十七世中村勘三郎
深雪太夫 西川鯉三郎
舞の師匠 長谷川一夫
など

演奏は

文楽座
竹本越路大夫 竹本文字大夫 豊竹小松大夫 野澤喜左衛門 野澤叶太郎 野澤勝平
清元
浄瑠璃
六世清元延寿太夫 清元小志寿太夫 清元清寿太夫 清元啓寿太夫 清元美寿太夫 清元清美太夫 清元邦寿太夫 
三味線
清元勝寿郎 清元一寿郎 清元榮三 清元清之輔 清元國次郎 清元秀二郎 清元一多郎
※清元は交代出演

という豪華な顔ぶれでした。

劇中の大部分は竹本連中の演奏で構成されていて、各所に上方唄の「露の蝶」「ひなぶり」を清元にアレンジした既存曲を取り入れた構成になっています。特に清元部分は深雪太夫の心情を照らし合わせる様な艶やかな場面で使用されています。 

壬生寺のほとりに住む「狸」が京の島原遊郭の「深雪太夫」に恋をしてしまいます。しかし深雪太夫は「舞の師匠」に秘かな恋心を抱いている事を知り、狸は師匠に化けて太夫の元へ。束の間の幸せな時間を過ごすと共に夫婦になる約束をして帰ります。

その後すぐに、今度は本物の師匠が稽古にやって来ます。もちろん二人の会話は当然かみ合わず、太夫は稽古にも身が入らない始末。師匠が怒って帰ろうとするところへ再び師匠に化けた狸がやってきます。今度は獣の足跡から正体がバレてしまい、そこに店の亭主も加わり狸を懲らしめる一計を案じます。狸は桑酒で散々に酔っ払った挙句に、太夫の見受けに必要な千両箱を探す為に店を出ます。

なかなか見つからない千両箱でしたが壬生野の田圃道を歩いていると、そこに千両箱が置いてありました。その千両箱、実は先回りをした店の者たちの仕掛けた罠だったのです。狸は捕まってしまい袋叩きになってしまいます。

一方、店では深雪太夫は本物の師匠との恋は実らず失恋してしまいました。

夜桜の美しい店に庭。叩きのめされ息も絶え絶えになった狸が辿り着きます。失恋した太夫は人を想う切ない心を知ったために、狸の気持ちに打たれ、彼の憧れていた「夫婦の真似事」を共に踊るのでした。

ファンタジックでコミカルな、そして儚く美しい作品です。

歌詞

さあのやあの糸桜 花時や何ッ処も忙しや
東のお茶屋の門口に 赤前垂れに襦子の帯
ちょっとちょっと 寄らんせ入らんせ
巾着に 銭の無いのはご承知か
無うても旦那入らんせ

島原の出口の柳さやさやと 忍ぶにつらき目せき笠

「セリフ」

春の真昼の草枕 想いそめては矢も楯も
ないて廓の初がえる

「セリフ」

心もそぞろ胸わくわく

「セリフ」

恋の奴が参りそろ 憐れと思え廓桜
親は他国に子は島原に さくら花か散り散りに

「セリフ」

壬生野の夜半のほととぎす

「セリフ」

壬生野の夜半のほととぎす

「セリフ」

壬生野の夜半のほととぎす 血を吐くばかり其方を恋い
いのち絶えなん想い川

「セリフ」

枕かなしき思い寝の 夜毎に泣いておりました
こちらが想えばその人も 連れつ縺れつ相生の
松と松との若緑 君ゆえならば恋死なむ
いのちの程も惜しからじ
おめえとならばドブ川に 心中するとも悔いは無え
当たって砕けろ世の中は 叩けば開く女の扉
夜毎に泣いた片恋の 涙も今は昔だぇ
浮名立て立て立兵庫 乱れて今朝のまむし酒
えぇそねめぇやい そねめぇやい そねめぇやい そねめぇやい

「セリフ」

見せてびっくりさせてやろ すぐに支度をして来る程に
足ごしらえして待っていや

「セリフ」

嬉し恥ずかし丸髷結うて 木幡とやらの里暮らし

「セリフ」

宵からしめて寝る夜さは 月があるやら曇るやら
縺れ縺れて夜明かしの

「セリフ」

恋の重荷のなぁ島之内 送り迎えにかく駕籠の
誰れであろうとしてこいな

「セリフ」

棒鼻にくくり付けたる提灯の 日がらの約束してきたが
高いも低いも色の道なえ えぇさっささっさ押せ押せ
夢の通い路なえ

「セリフ」

嬉しかったも束の間の夢 悲しいやら 恥ずかしいやら 怖いやら

「セリフ」

業平と我が名呼ばれん春時雨

「セリフ」

木幡ありゃせ 山里小笹の中で
寝たら手足がめでたいな あたら手足が傷だらけ

「セリフ」

木幡ありゃせ 山里夜這いの名所
逢えば手足がめでたいな あたら手足が泥だらけ

「セリフ」

可笑しさ堪えて

「セリフ」

木幡の里の新世帯 宵からしめて寝る夜さは 月があるやら曇るやら

「セリフ」

二人して飲む寝や酒は 酌めども尽きず飲めども変わらず
天より降りし比翼の酒 地より湧きたる連理の酒
その酒のもと何方ぞ
足元はよろよろ 床とる足もよろよろよろ
酔いに臥したる枕の夢の 酒の泉ぞ おぅ見つけたり

「セリフ」

業平と我が名呼ばれん春時雨

「セリフ」

こんこん木幡の山火事で たんたん狸が焼け死んだ
こんこん木幡の栗の木で たんたん狸が首吊った
こんこん木幡のてっぺんで たんたん狸が腹切った

こんこん木幡の山火事で たんたん狸が焼け死んだ
こんこん木幡の栗の木で たんたん狸が首吊った
こんこん木幡のてっぺんで たんたん狸が腹切った

・・・・・・

「セリフ」

春の夜の壬生の畦とめゆけば 朧夜草がなよなよと
菜種太夫が袖ひきやる 誰が踏み染めし恋の道
我は人にはあらねども 恋の切なさ身にぞ沁む

「セリフ」

釣ろうよ釣ろうよ 千両箱を釣ろうよ

「セリフ」

釣ろうよ釣ろうよ 千両箱を釣ろうよ
釣ろうよ釣ろうよ 千両箱を釣ろうよ

「セリフ」

掛かった掛かった 狸が掛かった
釣ったわ釣ったわ 狸を釣ったわ

「セリフ」

こんこん木幡の山火事で たんたん狸が焼け死んだ
こんこん木幡の栗の木で たんたん狸が首吊った
こんこん木幡のてっぺんで たんたん狸が腹切った

こんこん木幡の山火事で たんたん狸が焼け死んだ
こんこん木幡の栗の木で たんたん狸が首吊った
こんこん木幡のてっぺんで たんたん狸が腹切った

・・・・・・

思い寝の灯火暗き夢さめて 連れなき人の面影を
忘れもやらぬ身ぞ辛き

「セリフ」

世の中は何に例えん飛鳥川 昨日の渕は今日の瀬と
変わりやすさよ人ごころ

「セリフ」

今はこの身の愛想もこそも 月夜の空や鶏鐘を

「セリフ」

恨みしことも仇まくら

「セリフ」

憂きを知らずや草に寝て 花に遊びし明日には
露にやしのう蝶々の 思いきれなき女気の
涙に浸す袖まくら

「セリフ」

篠の細道かき分けて 来るわ誰故そさま故
西は田の畦危ないさ 東は泥川はまりゃんな
芋蔓に足をとられて よろよろよろ

「セリフ」

千両箱が欲しさに 袋叩きの憂き目に合い

「セリフ」

お顔を拝んで死にたいと

「セリフ」

深雪が相手をするわいな

「セリフ」

畜生の身で 身の程知らぬと叱られましょうが

「セリフ」

嬉し恥ずかし丸髷結うて 木幡とやらの里暮らし
宵からしめて寝る夜さは 月があるやら曇るやら
縺れ縺れて夜明かしの
二人して飲む寝や酒は 酌めども尽きず飲めども変わらず
天より降りし比翼の酒 地より湧きたる連理の酒

足元はよろよろ 床とる足もよろよろよろ
酔いに臥したる仇ゆめの 仇ゆめの

しづ心なく しづ心なく 花ぞ散る
春のなごりの 花ぞ散る

※竹本 清元 両者

動画