夕立(ゆうだち)

作詞

河竹新七(のちの河竹黙阿弥)

作曲

清元順三

初演

1865年(慶応8年)9月 江戸市村座

本名題

貸浴衣汗雷(かしゆかたあせになるかみ)

参考資料

清元全集 清元集 清元五十番

解説

主人公は「御殿女中竹川じつは須走りのお熊」と「真野屋徳兵衛じつは盗賊神道徳次」。
舞踊会などではお熊のみの立ち方で上演されることが非常に多く、稲光が発生し馬の毛並みも分けてしまうほどの雨が降る舞台演出で幕を開けます。端唄や小唄、舟や隅田川を表現する「つくだ」の三味線の合の手が取り入れられた艶やかな曲です。

文久元年(1861年)に江戸森田座で上演された「龍三升高根雲霧りゅうとみますたかねのくもきり(雲切五人男)」を河竹新七が女性版「處女評判善悪鏡むすめひょうばんぜんあくかがみ(白波五人女)」に改作しました。
登場人物「雲切お六」「須走りお熊」「木鼠お吉」「おさらばお傳」「山猫おさん」の五人中、「須走りお熊」が奥女中に変装し真野屋徳兵衛を色仕掛けでなびかせるという内容で、時折夕立の雷鳴響く隅田川の場面の余所事浄瑠璃で上演されました。

初演は四世清元延寿太夫の独吟、清元順三、磯八の三味線。
須走りのお熊は八代目市村家橘(のちの五代目尾上菊五郎)、盗賊神道徳次は五代目坂東彦三郎です。

歌詞

夕立の雨も一と降り 馬の背を
分けて涼しき川岸に 柳の枝の寄添ひて
いつしか色に鳴神の 音さ へ遠き筑波東風

残る暑さを川水へ 流す上手の帰り船

草の葉に 宿りし月も小夜風に
憎やこぼれてばらばらと 露か雫か 雫か露か
濡れて色増す 野辺の色
粋なお方に釣合はぬ 野暮なやの字の屋敷者
十の年からお小姓を 勤め通して御側役
はたちは越せど色恋は 掟きびしく白玉の
露にも濡れし事はなく
あとはいらへも長づとの 油香りて媚めかし
初の御見に手を取られ 飛立つ程の嬉しさは
蚊帳より胸に波うちて 紅麻うつる顔の色
またひとしきり降る雨に 仲を結ぶの雷や
こわさに抱き大川の 深き契りぞ交しける

動画