山姥(大山姥)(やまんば)

作詞

二世 桜田治助

作曲

清元斎兵衛

初演

1823年(文政6年)11月 江戸市村座

本名題

月花茲友鳥(つきとはなここにともどり)

参考資料

清元全集 清元集 清元五十番

解説

毎年11月は江戸の顔見世興行が行われ、そこには色々と習慣や約束事がありました。
時代物の狂言は出来ず、必ず「山姥物」を演ずるという規則で十数種類の山姥物が誕生しました。この曲も1823年(文政6年)11月に江戸市村座で初演され、他ジャンルのものと内容は同じです。

当時の初演は
山姥 三世坂東三津五郎
山賊斧蔵実は三田任 七世市川團十郎
怪童丸 初代岩井粂三郎(五世岩井半四郎)
清元 浄瑠璃 初世清元延寿太夫 初世清元栄寿太夫 清元政太夫
   三味線 清元斎兵衛 清元徳兵衛

源頼光の家来三田任(みたのつこう)は山賊斧蔵(やまかつよきぞう)に姿を変えて優秀な人物を探していました。ある日、足柄山の山中に探している人物がいると夢のお告げで知ります。
足柄山には知り合いの山姥が居て、そこを訪ねると山姥の息子怪童丸が童唄を唄って帰ってきます。疲れて甘える怪童丸に山姥は山の四季(山めぐり)を語って聞かせ、あやします。
一緒に聞いていた斧蔵は自分は三田任と身分を明かし、山姥もまた故坂田蔵人時行という武士の妻と明かすのでした。そして怪童丸はその二人にできた子で「武士に育てて天下に名を上げよ」という夫の遺言で、足柄山の神に誓って成長したことを話します。
三田任は怪童丸と力比べをし、怪童丸は松を根から引き抜いて怪力を見せます。感心した三田任は「坂田金時」と名乗らせ、必ず源頼光公の家来にすることを約束するのでした。
山姥は念願叶ったと喜ぶと同時に子と別れなくてはならない悲しさに感情が抑えられず、怪童丸を抱きしめて涙するのでした。


因みに怪童丸は一般的に「足柄山の金太郎」として多く知られています。
近年舞踊などでは「山めぐり」部分だけを抽出し「四季の山姥」として上演されることが非常に多い作品です。
この山姥はかつて京都九条の遊女「八重桐」で坂田時行と馴染みになり怪童丸を産みました。また清元「文売り」も実は山姥という設定です。※文売りでは「山姥実は傾城大淀」

歌詞

懸河渺々として巌峨々たり
山また山の大名題 薪に花の山賤は
曲げたる肘の高枕 煙草の煙蜒々と
雲を吹くなる中空に

斧蔵「ああら不思議やな 今思はずもまどろむうち 空にありあり赤色の雲の有様 目前不思議は 此の山中に人こそ隠れ住むと言う知らせなるか 何にもせよ奇代なことを見るものじゃなぁ ウム それはそうと 頼光公の仰せあったは此の山蔭の嬶衆と小僧 どりゃ訪れて見べえか」

立ち寄る軒の柴の戸に 蔦の錦を織姫の
五百機ならぬ糸車 めぐる浮世を捨てし身は
櫛せぬ髪の自ずから 鬼とや人の見るやらん

斧蔵「おふくろ此の頃は逢ひませぬのう」
山姥「おお 誰かと思へば斧蔵殿」
斧蔵「ときに小僧はどうしました」
山姥「さっきに迄いたづらしておりましたが 大方また猪猿を相手に相撲てがな 居りましょうわいのう」
斧蔵「そりゃ危ない 後先見ずの頑是なし 呼ばっせ 呼ばっせ」
山姥「ほんに怪我でもせねばよいが」

木の間がくれに ちらちらと それと見つけて

山姥「おお 怪童 怪童丸やーい」
怪童丸「オー」

神楽月とて片山里も 笛や太鼓で面白や
足の冷たに草履買うてたもれ 子をとろ子とろ どの子が目づき
あとの子が目づき かごめかごめ籠の中の鳥は いついつ出やる
夜明けの晩に つるつるつるつっぺった
木の間笹原くぐりくぐりくぐって ひょいと来た幼児

怪童丸「これ母さん おりゃこんな花 折って来たよぉ」

花うちしょうと振り立てて わやく盛りぞ愛らしき

斧蔵「どりゃ一服やらかすべいか」
怪童丸「母さん何ぞ下されや」
山姥「おぉ やりましょう やりましょう これこれこれ」

こんなよい物誰にやろがにやろ いっち愛しいほんそ子に
鈴やつぼつぼ でんでん太鼓 廻れやまわれ風車
くるりくるくる くるくると
世を空蝉のからごろも
千歳萬歳の砧に合せ 鼓の拍子しで打つや

斧蔵「これこれ小僧 このまさかりを馬にして」
山姥「おぉ こりゃよかろうさぁさぁ怪童 お馬が参る」
怪童丸「ハイハイハーイ」

月毛にあらぬ斧の駒 取るや手綱もりん志げに

怪童丸「先のけ先のけ先のけろぉ」
山姥「お月様いくつ」
怪童丸「十三七つ」
山姥「御供はいくつ」
斧蔵「八十八つ」
山姥「ほんにそりゃ若いな」

(あっぱれ見事や 可愛らし)
山家おどりは
斧蔵「何と言うた」

おんらが在所はな 奥山のでで打ちの
でんぐりでんぐり栗の木の 木の根を枕に
こざれ抱いて転び寝

怪童丸「これ母さん乳飲もう」
山姥「これはしたり そーれおじ様が見て笑うてじゃ それよりは又いつもの山めぐりの話をしようほどになぁ」
斧蔵「こりゃ面白かろう そんならおふくろ 俺も山めぐりの話をここで聞くべいか」
山姥「されはいのぉ 昔語りもはずかしや ありし姿もどこへやら 無明の滝に髪洗い 若葉を見ては春を知り 妻戀う鹿の音を聞いて 秋と思うて御山路を 明日あしたの山めぐり」

よし足曳の山めぐり 四季の眺めも面白や
梅が笑えば柳が招く 風のまにまに早蕨の
手を引添うて彌 つくろう花の仇桜
桃は気儘に山吹も 見果てぬ中に春過ぎて
はや卯の花と花がつみ
そしてあやめ菖蒲や杜若 ほっそりと時鳥
あれ夕立に濡れ忍ぶ涼風がえ
雁が届けし玉章は 小萩の袂苅萱に
返事紫苑も朝顔の 遅れ咲なる恨み詑び
露にも濡れてしっぽりと 伏猪の床の菊がさね
よいよい よいよい よいやさ
よいや冴え行く初時雨 松も杖つく老の坂
おらも嫁入てなぁ  来た時やほんにさ
爺様裃 わしゃ丸綿で 顔に茜も恥かしかった盃
今は朝茶に念仏拝んで おありかた衣角かくし
女夫で参るお朝事や 我は子故に室咲の
花を尋ねて山めぐり

三田任「如何さま親というものは有難いものだ しかし女の身にて此の山中へ引きこもりとは 仔細ぞあらん 我こそは源家の臣 三田の仕という者 」
山姥「えぇそんならぁ あなたが三田の仕様とや この上は何をか お隠し申しましょう 我々こそは坂田の蔵人時行が 妻子の者でござりまする」
三田任「おぉさてこそなぁ 願いによっては力となって得させん 様子は何と」
山姥「願いは夫 時行 過ぎ去る折 胎内に宿せし一子 男子ならば武士に育て上げ 一天下に名を挙げさせよとの遺言により此の足柄の山神に祈誓をかけ 早七年 ある夜の夢枕に 怪童こそは 天晴れ天下に英雄の名を挙げん心をつけて育てよとの神のお告げ」
三田任「ほう ヤ驚き入ったる物語 母が丹精 山神の加護 勇力さこそと思はわるる 怪童この場でそれがしと 力の程を試してみるか」
山姥「おぉこりゃよかろう さぁさぁ 怪童丸 必ず共に負けまいぞ」
三田任「さあ来い 怪童」
怪童丸「合点だ」

神変不思議の怪童丸 此方はあしらう勇力士
怪童焦って傍へなる 松を根こぎに引き抜いて
ふんじがったる有様は 人も恐るるばかりなり

三田任「うん 其の松の根こぎ面白い さぁ打って来い」
怪童丸「合点だ」

勝負勝負と打ちかくるを すかさぬ強気の力こぶ
幹より腕の節くれて しっかと掴めばメリメリメリ
えいやえいやとねじきって 左右へ分かれて立ったりしは
目覚しかりける次第なり

三田任「おぉ力の程は試し見た 今より頼光公の家臣となさん」
山姥「何がさて母が喜び此の上なし」
三田任「然らば今より父が其の名を 坂田の金時と名乗らせん」
怪童丸「そんならおれは侍になるのか 嬉しい嬉しい」
山姥「おぉ嬉しかろう嬉しかろう 去りながら今別るればこの母に また逢うことはならぬぞや 怪童ここへおじゃ」

夫の形見と見るにつけ そなたの大事さ大切さ
今日別るれば今宵より 母一人寝の閨の内
さぞ面影の懐かしかろう 頼光公へ御奉公
勤むる暇の明け暮れに
山姥「武術を励み奉公せよ 必ずかならず人様に」

山姥が子と笑われな

山姥「今別るるとも此の母が」

そなたの影身に附添いて なお行末を守るべし
とは言うもののこれがまあ 名残惜しや愛おしやと
抱き上げ抱き付き 思はずわっと一聲は
梢に響き哀れなり

山姥「あぁ我れながら恥かしや 望み足りぬる上からは 輪廻を離れん怪童丸 名残りは尽きじ早去らば」

いとま申して帰る山の 峰の梢も白妙や
源氏の武名尽せなき 実さへ花さへ立花の
賑ふ櫓ぞ久しけれ 栄うる櫓ぞめでたけれ

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