種蒔三番叟(たねまきさんばそう)

作詞

二世桜田治助

作曲

伊藤東三郎

初演

1812年(文化9年)9月 江戸中村座

本名題

再春菘種蒔(またくるはるすずなのたねまき)

参考資料

江戸豊後浄瑠璃史 清元全集 清元集

解説

この曲は「舌出し三番叟」「志賀山三番叟」とも呼ばれ、清元や長唄のみの演奏、または両掛け合いで上演されます。

そして清元としての最初の曲とされています(もっと年代の古い曲は富本節などから移植されているため)

1812年(文化9年)9月 に江戸中村座で長唄との掛け合いで初演されました。
江戸で人気を博した三世中村歌右衛門が五年ぶりに大阪へ帰る記念として、志賀山流の「舌出し三番叟」復活したものです。本名題の「再春」には再び江戸に戻って来るという歌右衛門の願いや意志が込められていると言われています。

元の「志賀山(舌出し)三番叟」は中村仲蔵が初演したもので、
冒頭歌詞「その昔秀づる鶴の名にし負う 都のぼりの折を得て おしえ請地の親方に 舞のけいこを志賀山の ~ 芽出度う栄や仲蔵を」は秀鶴(仲蔵の俳名)が大阪へ来た折に志賀山三番叟を習ってここに演じるという、中村仲蔵と志賀山流への恩恵の意を表しています。また「にせ紫」と歌右衛門自身を卑下し、益々恩恵を預かったと重ねています。

曲は、尉(じょう)と相人(あど)の子宝にまつわる萬歳が入り、天岩戸伝説、神楽や目出度い物事を数多く並べ、「藤内次郎が栃栗毛に~」からは婚礼の様子、夫婦になって子孫繁栄を願うという内容になっています。

 

「種蒔三番叟」初演時

三番叟 三世中村歌右衛門
千 歳 中村明石
翁   十一代目中村勘三郎

清元は
浄瑠璃
豊後路清海太夫(清元節の成立は1814年(文化11年)のちの初世清元延寿太夫)
豊後路伊掾太夫
豊後路宮路太夫

三味線
伊藤東三郎
伊藤忠五郎
伊藤岩蔵

長唄は
三世芳村伊十郎
二世杵屋正次郎

歌詞

その昔秀づる鶴の名にし負う 都のぼりの折を得て
おしえ請地の親方に 舞のけいこを志賀山の
振りもまだなる稚気に 忘れてのけし三番叟
揉みだし繰出しひとかなで 芽出度う栄や仲蔵を

おおさえ おおさえ 喜びありや喜びありや
我この所より他へはやらじと思ふ

にせ紫もなかなかに およばぬ筆に写し絵も
いけぬ汀の石亀や ほんに鵜のまね烏飛び
とっぱひとえに有難き 花のお江戸の御贔屓を
かしらに重き立烏帽子

尉「あらめでたや 物に心得たる相人(あど)の太夫殿に そと見参(げんぞう)申す」
相人「ちょうど参って候」
尉「相人の太夫殿をお見立て申して候」
相人「なんと御らんじ候や」
尉「福人とお見立て申して候」
相人「また色の黒き尉殿をお見立て申して候」
尉「なんと御らんじ候や」
相人「徳人とお見立て申して候」
尉「ヤ仰也の如く徳人の中にても子徳人にて候 十人の子供等を車座にならべ一時は名をつけて候」
相人「なんと御付け候ぞ」
尉「まつ おっとり ちがえ おとよ けさよ 辰松 ゆる松 だんだらいなごに かいつく ひっつく 火打ぶくろに ぶらりっと付けて候」
相人「あら目出度や その若子たちの祝い月 一段と賑はしき事に思はれて候」
尉「先ず相人の太夫殿には 重々と元の座へ御直り候 へ」
相人「先ず色の黒き尉殿には一舞い御舞い候 へ」
尉「いやいや 御直りのうては舞い候まじ」
相人「いやいや 御舞い候へ」
尉「いいや 御直り候 へ」
相人「ああら ようがましや さあらば鈴を参らしょう そなたこそ」

天の岩戸のな 神楽月とて祝うほんその歳も
五ツや七三ツ見しょうと 縫の模様のいとさまざまに
竹に八千代の寿こめて
松の齢の幾万代も 変らぬためし鶴と亀
ぴんとはねたる目出鯛に 海老も曲りし腰熨斗目
宝づ くしや宝船

やらやら 目出度いのえん 四海波風おさまりて
常盤のえん木の葉も繁る えいさらさ
鯉の滝登り 牡丹に唐獅子唐松を
見事にみごとにさっても見事に手をつくし
仕立栄えあるよい子の小袖 着せてきつれてまいろかの
肩車にぶん乗せて 乗せて参ろの氏神詣で きねが鼓のでんつくでん
笛のひしぎの音も冴えたりな さえた目元のしおらしき
中のなかの中娘を ひた つ長者が嫁にほしいと望まれて

藤内次郎が栃栗毛に乗って エイエイエイ
えっちらおっちら わせられたんので その意に任せェェェ申した

さて婚礼の吉日は 縁を定んの日を選み
送る荷物は なになにやろな 瑠璃の手箱に珊瑚の櫛笥
玉をのべたる長持に 数も調度いさぎよく

様はなぁ百までなぁえ わしゃ九十九までなぁえ
なんの性でぇ
共なぁ白髪のなぁえ 生ゆる迄なぁえ
嫁とはいえど世間見ず 駕籠の内外の思惑が
恥かしみじみ案じられ
初に添寝の新枕 交わす言葉も何と言うて
どうして宵の口と口 互ひに手さえ鶏鐘の
声が取持ちようようと 明けゆく空を月にして
妹背むすんで女夫仲 むつまじ月と岩田帯
やがて孫彦玄孫をもうけ 末の楽しみこの上や

欲しかおましょぞ ひと枝折りて そりや誰に
愛し女郎衆の かざしの花に ほうやれ
恋の世の中 實戀の世の中 面白や

すぐにもあがり御目見得を
またこそ願う種蒔や 千秋萬歳 萬々歳の末までも
賑おう芝居と舞納む

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