吉野山 歌詞&プチ解説

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こんにちは。くにえです。

 

今月歌舞伎座「八月花形歌舞伎」第三部「吉野山」の歌詞とプチ解説を書こうと思います。

國惠太夫blog「八月花形歌舞伎in歌舞伎座」もご参照ください(^O^)

 

 

 

解説

吉野山。本名題を「幾菊蝶初音道行(いつもきくちょうはつねのみちゆき)」といいます。

※別名を登場人物から「忠信」と表現されることもあります。

通し狂言「義経千本桜」の四段目。

元々は義太夫節「道行初音旅」を「富本節」に改作。そして「富本節」から明治41年に「清元節」に改調されて現在の曲になりました。

 

静御前は佐藤忠信(実は源九郎狐)をお供に連れて義経のいる吉野山に旅立ちます。その静御前が義経から貰った「初音の鼓」は、忠信に化けた源九郎狐の親の皮を使って作られていました。

「初音の鼓」を慕い、懐かしむ狐忠信。

鼓の音や周りに飛んでいる蝶と、つい戯れてしまい時折狐の本性が出てしまうというコミカルな部分も見どころです。

 

曲の前半は、静御前が道を急ぎながらも吉野山の美しい風景と想い人(義経)への気持ちを重ねる場面。

中盤は忠信の兄である佐藤嗣信が壇ノ浦で義経を守り、討ち死にしてしまった話を静御前に報告する場面。

後半は静御前を捕らえるべく追いかけてきた「早見の藤太」との戦闘場面。

 

と、笑いあり涙ありの大作です。

  

 

初演

文化5年(1808)5月。江戸中村座。(富本節として)

忠信・三代目中村歌右衛門

静御前・四代目瀬川菊之丞

 

作詞者

三世 瀬川如皐(清元に改訂・竹柴金作)

作曲

富本・鳥羽屋里長(清元に改曲・清元梅吉)

 

 

 

今月の舞台で上演される個所の歌詞を掲載いたします。

歌詞を読まれると場面の雰囲気や意味が分かり、一層舞台を楽しくご覧いただけると思います!

 

 

  

歌詞

 

恋と忠義はいずれが重い 掛けて思いは計りなや

静かに忍ぶ旅立ちや

馴れぬ茂みのまがい道 弓手(ゆんで)も馬手(めて)も若草を

分けつつ行けば あさる雉子(きぎす)のぱっとたっては。

ほろろ けんけん ほろろうつ

なれは子ゆえに身を焦がす 我は恋路に迷う身の

ああ羨まし 妬ましや

 

谷の鶯 初音のつづみ はつねの鼓

調あやなす音に連れて つれて真似草 音に連れて

遅ればせなる忠信が 吾妻からげの旅姿

 

背に風呂敷 しかと背負たらおうて 野道あぜ道ゆらりゆらり

軽いとりなりいそいそと 目立たぬように道隔て

 

静 「おぉ忠信殿 待ちかねましたわいな」

忠信「これはこれは静様 女中の足と侮って思わぬ遅参 まっぴら御免くださりましょう」

静 「ここは名に負う吉野山 四方の梢もいろいろに」

忠信「春立つと 云うばかりにや三吉野の」

静 「山も霞みて」

忠信「今朝は」

両人「見ゆらん」

 

見渡せば 四方の梢もほころびて 梅が枝唄う歌姫の

里の男子が声々に 我が夫が天井ぬけて据える膳

昼の枕はつがもなや 天井ぬけて据える膳

昼の枕はつがもなや 可笑し烏の一節に

 

徳若にご万歳とは 君も栄えてましんます

愛嬌ありける柳ごし よい中村のやぐら幕

櫓太鼓のにぎにぎと 商い神の若えびす

繁盛まします その御徳に 御田の稲には穂に穂を栄え

宝御船萬石舟 色の実入りに今年綿

誠に目出度う さむらいける 

やしょめやしょめ 京の町のやしょめ

売ったるものは何々 はまぐり はまぐり

蛤 はまぐり はまぐり

はまぐり見さいなと売ったるものは何々

はまぐり早き貝合わせ

 

弥生は雛の妹背中 女雛男雛と並べておいて

眺めに飽かぬ三日月の 宵に寝よとは きぬぎぬに

急かれまいぞと恋の欲 桜は酒が過ぎたやら

桃にひぞりて後ろ向き 羨ましうは ないかいな

 

忠信「せめては憂さを 幸い 幸い」

 

姓名添えて賜わりし 御着せ長を取り出だし

君と敬い奉る しずかは鼓を御顔と よそえて上に置きの石

 

人こそ知らね西国へ 御下向の御海上 波風荒く御船を

住吉浦に吹き上げられ それより吉野にまします由

やがてぞ参り候らはんと 互いに形見を取り納め

実にこの鎧を賜わっしも 兄嗣信が忠勤なり

 

静「なに嗣信が 忠勤とや」

 

誠にそれよ 来し方を 思いぞ出る壇ノ浦の

 

忠信「海に兵船 平家の赤旗 陸(くが)に白旗」

 

源氏の強者 あら物々しやと夕日影 長刀引きそばめ

何某は平家の侍 悪七兵衛景清と名乗りかけ

薙ぎ立て薙ぎ立て 薙ぎ立つれば

花に嵐のちりちりぱっと 木の葉武者

言い甲斐なしとや方々よ 三保谷の四郎これにありと

渚にちょうと打ってかかる 刀を払ろう長刀の えなれぬ振る舞い いづれとも

勝り劣りは波の音 打ち合う太刀の鍔元(つばもと)より 折れて引く潮 帰る雁

勝負の花と見すつるかと 長刀小脇にかい込んで 兜の錣(しころ)を引っ掴み

後へ引く足 たじたじたじ 向こうへ行く足 よろよろよろ

むんずと錣をひっ切って 双方尻江に どっかと座す

腕の強さと言いければ 首の骨こそ強けれと

ムフフフフフ ダハハハハハ

笑いし後は入り乱れ 手しげき働き兄嗣信

君の御馬の矢面に 駒を駆け据え立ち塞がる

 

静 「おぉ聞き及ぶその時に 平家の方にも 名高き強弓」

 

能登守

 

静 「教経と」

 

名乗りも和えず よっ引いて 放つ矢先は恨めしや

兄嗣信が胸板に たまりもあえず真っ逆さま 敢え無き最後は武士の

忠臣義士の名を残す 思い出ずるも涙にて 袖は乾かぬ筒井筒

 

掛かるところへ早見の藤太 家来引き連れ立ち至る

 

※早見の藤太・家来 セリフ (舞台でお楽しみに!)※

 

禰宜が鼓に鈴振る手元 ちょっと鳥居を ありゃありゃしてこい

飛び越え狐 愛嬌も 宇賀の御霊は玉姫稲荷

妻恋 染めて嫁入りして そこらでしめたぞ天日照り

堅い契りのお岩様 四ツ谷でお顔を三巡りに

好いたらしいと思うたる 縁に引かれて車咲き

ちょっとおさえた強力の 袖すり抜けてどっこいな

えぇもうしつこい そこいらで

翁稲荷か とうとうたらり 喜びありや烏森

 

いつか御身も伸びやかに 春の柳生の いと長く

枝を連ぬる御契り などかは朽ちしかるべきと

互いに諫め いさめられ 急ぐとすれど はかどらぬ 芦原峠 鴻の里

雲と見紛う三吉野の 麓の里にぞ ※(着きにける)

 

赤字 竹本連中)

 

 

 

 

 

清元 國惠太夫

 

 

 

 

 

 

 

 

参考資料

清元全集 清元集 清元五十番