権九郎について

こんにちは。くにえです。

来たる10月4日に第6回やのくら音楽会を開催いたします。

音楽会に先立ちまして、今回演奏します曲について解説したいと思います。
サブタイトルを「恋はくせもの」と題しまして、そのテーマにぴったりのものをご用意いたしました。

「白玉権九郎(しらたまごんくろう)」。

本名題を「忍岡恋曲者(しのぶがおか こいはくせもの)」と言います。
歌舞伎では「黒手組曲輪達引(くろてぐみ くるまのたてひき)」(作・河竹黙阿弥。世話物。)という、同じく歌舞伎で有名な「助六」という作品のパロディー的な芝居の序幕として、清元の権九郎が演じられます。

つまりストーリーとしては、下で紹介している歌詞の他に続いていくわけですが、今回のやのくら音楽会ではその序章を演目としてお楽しみいただきたく思います。


「権九郎」は1858年(安政5年)3月に江戸の市村座で初演されました。

昨年のNHK大河ドラマ「篤姫」をご覧になった方々にわり易く説明しますと、翌月の4月に彦根藩主、井伊直弼が大老に就任しています。7月には篤姫養父、島津藩藩主の島津斉彬が死去したりと、幕末のそんな動乱の時代に作られた作品です。(笑)

登場人物は三人。遊女白玉、三枚目の近江屋番頭権九郎、色男の悪人の牛若伝次。

新吉原三浦屋の遊女「白玉」は評判の美人でした。その白玉に惚れ込み、入れ込んでしまったのは「番頭権九郎」。
権九郎は店で着服した大金50両と白玉を連れて生まれ故郷の上方へ逃げるつもりでした。
しかし、白玉には牛若伝次という札付きの情夫がいます。
白玉と伝次は権九郎を騙し、大金を手に入れる計画を立てたのです。

朧月の出る夜道。
白玉と駆け落ちが出来て、嬉しくて仕方がない権九郎、騙すために愛想を無理にする白玉、影からチャンスをうかがう伝次。
三人の織り成すそれぞれの思惑をリアルに楽しんで頂きたいと思います。


権九郎
(作詞:河竹黙阿弥 作曲:二世清元斎兵衛)

絵に書かば墨絵のさまや 朧夜の空ににじみし月影も 忍ぶが岡を二人連れ
散り来る花の白玉に 鐘の音霞む権九郎 手に手を取りてそこはかと
谷中を越えて車坂 よそ目に見れば二本の 離れぬ杉の道行は
あじな縁しを出雲にて 結び違いし神垣や 稲荷の森へ歩み寄り

「コレ白玉道々も言う通り 掟厳しい廓をば連れて退いた上からは 所詮江戸には居られぬぞや」
「江戸の内に居られぬとて どこへ行くのでありんすよ」
「ンサアどこと言うて当てはなけれど 生まれ故郷の上方へでも連れて行き
 世間晴れて権九が女房 まず京なれば木屋町か 
大坂ならば島の内 当分粋なへへへ座敷を借り」

下女が一人に 子猫が一匹 他には邪魔も新世帯 取り膳で食う楽しみは
一つ肴をむしり合い 箸の先での錣引き ひっくり返す皿小鉢
これはしたりと飛び退いて それ雑巾よ拾えよと
さんと呼びゃ ハーイと来る ぶちと呼びゃ ニャーンと来る

これを続けて呼ぶならば
おははいのハイと言やオニャニャのニャーンと鳴く
こんな騒ぎも痴話半分 嬉しかろうじゃないかいな

「なんと白玉そうなったら さぞそなたは嬉しかろうの」
「そりゃもうわちきが日頃の願い 嬉しゅうのうて何としましょう」
「うふふ あのまあ嬉しそうな顔わいな」

鼻毛のばして差し覗く 馬鹿げし顔を 流し目に

「そう聞く上は少しも早う 追手のかからぬ内 
 わちきゃ上方へ行きとうござんすが 聞けば遠い所とやら お前路用がござんすかえ」
「おっとそこに如才があるものか 今日千葉様へ納めに行く
 為替の金の五十両 ちゃんと着服しておいた
 これを路用に通し駕篭 伊勢参宮から大和をば 廻った所がまさか二分にはなりゃしまい」
「そんならそこに持って居やしゃんすかえ」
「何で嘘をつくものか 疑わしくば サッこれを見や」
「ンまぁこりゃほんにお金でござんすな」
「しかも小判で五十両 これさえあれば大丈夫」

押し戴けば後ろより 財布めがけて一掴み あわやと驚く権九郎 池の深みへ

「伝次さん」
「アッこれ」

むらかもめ

「伝次さん うまくいったねえ」
「そうよ 濡れ手で粟の五十両 この金の手に入ったのも みんなお主のお蔭 白玉いい度胸になったなぁ」
「これもみんな お前に仕込まれたんだよぉ」
「俺だといって まさか鋏を持って生まれやしねぇ これでも以前は武士のたね 藁の上から町家へやられ
 育ちが悪さに巾着切り 悪いこたぁ覚え易く 今じゃどこの盛り場でも 顔を知られた牛若伝次
 然し盗んだもなぁ一文でも 身に付けたこたぁありゃあしねえや
 二人が仲の離れねえのも これが悪縁とでも言うんだろうよ」
「今更言うのも愚痴ながら お前とこういう仲になったのも 忘れもせぬ 去年の秋」

まだ新宅の店先を そそるいなせの地廻り衆 多くの中でこなさんが
ふっと目につき物言いかけ 初手は浮気な格子色

朋輩衆になぶられて 話もならず裏茶屋で たまに逢うさえ束の間も
涙の雨に離るるが ここが苦界じゃないかいな

折しも告ぐる後夜の鐘 伝次はすげなく立ち上がり

「またもや追手のかからぬうち 世田谷道から厚木街道」
「あぁもし その道は寂しいかえ」
「どうせ駆け落ちをする道だもの 賑やかなこたぁありゃあしねえや」
「それだって何だか気味が悪いねえ そりゃそうと あの権九郎はどうしたろうねえ」
「どうするものか 土左右衛門よ」
「エェ」
「エェ ぐずぐずしねえで 早く支度をしねえか」
「アイ」

あいと白玉帯締め直し 二世を掛けたる中島を あとに三橋や清水門 人目いとうて走り行く